最終更新日:2021年07月13日

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フライス加工用の
切削計算アプリ
「ミリングマニアック」の「動バランス」計算機能説明

目的:工具を高速回転させる時に必要な動バランスを計算します.
内容:アルミ加工用の切削工具など,高速回転が必要な切削工具を使用する際,工具の回転中心軸上に重心が存在しない場合は遠心力による振れが発生するので,それを抑えるための計算をします.
その遠心力による振れは,ずれている重心の方向に発生するため,工具の回転振れを引き起こし,主軸に損傷を与えたり,加工面を荒らしたりする要因になります.
遠心力によって生じる工具振れは,回転して初めて生じる動的な振れなので,工具をセットした時に既に生じている静的な振れとは違い,発見が難しいです.
そのため,高速回転工具を使用する際には,回転中心と重心のずれを示す動バランスを調整してやる必要があります.
それに必要な簡易的な計算ができるような計算機能を持たせています.

動バランスの品質は,下式によって得られる釣り合わせ品質グレードによって示されます.
これは,回転体の回転中心と重心の位置のずれと,回転数の積になっています.
よって,同じ品質グレードでも,高速回転工具では,より厳密に,重心位置を管理する必要があります.
どの程度の回転数をもって高速回転の工具というかについては,ISO 15641に定義されており,当然ながら工具径によって回転数は異なります.

\(\displaystyle G = \cfrac{ \varepsilon \times N}{9550} \)

\( G \):釣り合わせ品質グレード[mm/s]
\( \varepsilon \):不釣り合い偏心量[um]
\( N \):回転数[rpm]

釣り合わせ品質グレードの物理的意味としては,回転中の振動速度の最大値を示しているようです.
ただし,なぜ回転中の振動速度の最大値で評価しないといけないのか,については,私にはよくわかりませんでした.

JIS 0905では,上式で計算される釣り合わせ品質グレードが,何の製品においてどのくらい必要か,という推奨値が記載されています.
工作機械関係としては,工作機械の主軸にはG2.5,工作機械および一般機械の部品にはG6.3の等級が推奨されています.
ここから考えると,G2.5からG6.3の等級があればいい,ということになります.
どの程度の動バランスを確保すべきか,という点については,各社の高速切削工具のカタログにも記載されているので参考にできます.
しかしながら,よく見比べると各社とも微妙に違うことを書いているので,統一的な見解は無いように思われます.

動バランスの指標には,許容不釣り合いというものもあります.
これは,回転体の回転中心と重心の位置のずれと,回転体の質量の積になっています.

\( U = \varepsilon_{per} \times m \)

\( U \):不釣り合い[um kg = g mm]
\( m \):ロータ質量[kg]

下式より,許容不釣り合いに回転数をかけると遠心力が計算できることがわかります.

\(\displaystyle F_{r} = U \times \omega^2 = U \times ( 2\pi \cfrac{ N }{60})^2 = \varepsilon \times m \times ( 2\pi \cfrac{ N }{60})^2 \)

\( F_{r} \):遠心力

問題は,どのようにして動バランスを把握して調整するか,ということですが,まず,動バランスを測定するには専用の測定機がないと非常に難しいです.
また,動バランスの測定結果に応じて,カウンタウェイトを取り付けたり,対象物の一部を除去したりして,動バランスを目標のグレードに合わせこむ作業も難しいです.
一応,カッタによっては,円周上に等間隔でネジ穴が設けられているものもありますが,バランス取り用の構造を持っていないカッタも多いです.
よって,ユーザ側がバランス取りを行うには,カッタの一部を除去するしかありませんが,これは何度も繰り返し実施できるような調整法ではありません.

動バランス取りに関する理論などは,非常に難しいので,各自で調べてもらったほうがいいと思います.
ここの計算機能では,静不釣り合いの一面バランス取りに使える程度の計算しかできません.
カッタの突き出し長さが長いものだと,偶不釣り合いが生じるので,一面のバランス取りでは対応できません.

参考資料:
・ISO 15641 Milling cutters for high speed machining - Safety requirements
・JIS 0905 回転機械-剛性ロータの釣合い良さ(Rotating machines- Balance quality requirements of rigid rotors)
・松下修己,田中正人,神吉博,小林正生:回転機械の振動 実用的振動解析の基本,コロナ社,2009.